「今週忙しいから土曜出勤で」は大丈夫? 1年単位の変形労働時間制と休日振替の注意点

製造業や建設業などでは、繁忙期と閑散期に合わせて「1年単位の変形労働時間制」を採用している会社があります。

ところが、年間カレンダーを決めた後になって、急な受注や納期変更などで「休日に出勤してもらいたい」ということもあります。

そんなとき、「別の日を休みにすれば問題ないだろう」と考えてよいのでしょうか。

今回は、ある会社の社長とオフィスキタ代表・北との会話形式で考えてみます。

社長

北さん、ちょっと相談です。今度の土曜日は会社カレンダーでは休みなんですが、急ぎの注文が入ってしまいました。

北

御社は1年単位の変形労働時間制でしたね。

1年単位の変形労働時間制では、「この日は何時間働く」「この日は休日にする」という労働日と労働時間を、あらかじめ決めて運用することが基本です。

そのため、会社の都合で年間カレンダーを自由に動かすことを前提とした制度ではありません。

そもそも「先に勤務日を決める」制度

社長

うちも年間カレンダーで出勤日と休日を決めています。

北

そこがポイントです。年間カレンダーを作っておきながら、「今週忙しいから土曜日を出勤日にしよう」と会社が自由に変更できるのであれば、最初に労働日を決めた意味がなくなってしまいます。

通常の業務の繁閑を理由として、休日を頻繁に振り替えることを前提とするような運用は、1年単位の変形労働時間制とは相容れません。
「仕事が増えたら休日を動かせばいい」という制度ではないのです。

では休日振替は一切できないのか

社長

それでは、年間カレンダーを決めたら、何があっても休日を動かせないんですか?

北

そこまで硬直的ではありません。カレンダーを決めた時点では予想できなかった事情が発生して、どうしても休日を振り替えなければならない場合には、一定の条件を満たせば振替が認められています。

ここで重要なのは、「最初から想定できた繁忙」なのか、「勤務日を決めた時点では予想できなかった事情」なのか、という違いです。

例えば、毎年必ず忙しくなる時期について、「忙しくなったら休日を出勤日に変更しよう」という運用を前提にすることは適切ではありません。

一方で、労働日を決めた時点では予想できなかった事情が発生し、やむを得ず休日出勤が必要になった場合には、一定の条件のもとで休日振替が可能とされています。

振り替える場合にも条件がある

社長

予想外の仕事だったら、好きな日に振り替えていいんですか?

北

そこにも条件があります。休日振替だからといって、会社が自由に休みを動かせるわけではありません。

まず、就業規則に休日を振り替えることができる旨の規定が必要です。さらに、休日を出勤日に変更する場合には、出勤させる前に、代わりにいつを休日にするのかをあらかじめ特定しておく必要があります。

  • 就業規則に休日振替の根拠となる規定があること
  • 振替前に、代わりの休日をあらかじめ特定すること
  • 通常の期間では、振替後も連続労働日数が6日以内となるようにすること
  • 労使協定で定めた「特定期間」では、1週間に1日の休日を確保できる範囲で行うこと
北

「とりあえず土曜日は出てくれ。休みは後で考える」というやり方では、適切な休日振替とはいえません。

「9時間の日」と休日を交換したら?

社長

うちは繁忙期に1日9時間勤務の日があります。その9時間勤務の日と休日を入れ替えたら、休日だった日に9時間働いてもらってもいいということですか?

北

そこも注意が必要です。勤務日と休日を入れ替えたからといって、勤務時間までそのまま移るとは限りません。

1年単位の変形労働時間制では、あらかじめ「この日は9時間勤務」と定めているからこそ、その日に8時間を超えて働いても、直ちに時間外労働にならない場合があります。

しかし、もともと休日だった日は、「9時間働く日」としてあらかじめ定められていたわけではありません。

そのため、もともと休日だった日に9時間働いた場合には、8時間を超える1時間について時間外労働として扱われ、割増賃金の支払いが必要になります。

社長

単純に「休日と勤務日を交換したから、勤務時間もそのまま交換できる」という話ではないんですね。

北

その通りです。1年単位の変形労働時間制では、休日だけでなく、あらかじめ定めた労働日と労働時間まで確認して判断する必要があります。

年間カレンダーは「作れば終わり」ではない

1年単位の変形労働時間制を導入している会社では、年間カレンダーを作成した後の運用が非常に重要です。

急な休日出勤が必要になったときに、「別の日を休みにすればいい」とすぐ判断するのではなく、就業規則の規定、休日振替の理由、振替日、連続勤務日数、時間外労働や割増賃金の有無まで確認する必要があります。

北

年間カレンダーを作って終わりではありません。実際の現場で、そのカレンダーをどう運用するかまで考えておくことが大切です。

特に休日出勤が比較的多い会社では、就業規則に定めた休日振替のルールと、実際の運用が一致しているかを一度確認しておいたほうがよいでしょう。

まとめ

  • 1年単位の変形労働時間制では、労働日と労働時間をあらかじめ定めて運用するのが原則です。
  • 通常の業務の繁閑を理由に、休日を自由に振り替えることはできません。
  • 予想できなかった事情でやむを得ず振り替える場合でも、就業規則や連続労働日数などの条件を確認する必要があります。
  • もともと休日だった日に8時間を超えて働かせる場合は、時間外労働として割増賃金が必要になることがあります。

1年単位の変形労働時間制は、繁忙期と閑散期がある会社にとって有効な制度です。しかし、年間カレンダーを作成した後の運用を誤ると、労働時間や割増賃金の取扱いに問題が生じることがあります。

オフィスキタより

「この休日変更はできるのか」「休日振替と代休はどう違うのか」「割増賃金は必要なのか」など、実際の判断は会社の就業規則や年間カレンダー、勤務実態によって変わります。

オフィスキタでは、就業規則を作成して終わりにするのではなく、実際の会社運営の中で適切に使えるよう、労働時間制度や休日運用についてもご相談をお受けしています。

参考:労働基準法第32条の4、1年単位の変形労働時間制に関する行政通達

投稿者プロフィール

北 健夫
北 健夫社会保険労務士・行政書士
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北 健夫