「何でもハラスメント」と言われたら?管理職が萎縮しないための職場づくり

「最近は何を言ってもハラスメントになるから、部下に注意しにくい」

経営者や管理職から、このような声を聞くことがあります。

一方で、上司は通常の指導だと思っていても、部下が大きな苦痛を感じ、職場の問題に発展するケースもあります。

ハラスメントを防ぐことは重要です。しかし、誰も注意できない、必要な指導もできない職場になってしまっては、会社の業務にも支障が生じます。

では、会社はどのように考えればよいのでしょうか。

今回は、社長とオフィスキタ代表・北のやり取りから考えてみます。

1.部下から「それはハラスメントです」と言われたら?

社長

最近、うちの管理職が部下への注意をためらうようになっています。

仕事上のミスを指摘しただけで、「それはハラスメントではありませんか」と言われることもあるそうです。

こんな状態では、まともな指導ができなくなりませんか?

北

確かに、管理職が必要な指導まで避けるようになるのは、会社にとって問題です。

ただし、相手がハラスメントだと訴えたことと、法律上ハラスメントに該当することは、必ずしも同じではありません。

例えば、業務上のミスについて事実を確認し、改善を求めることは、管理職の重要な仕事です。

一方で、指導の必要性があっても、人格を否定する言葉を使ったり、大勢の前で執拗に叱責したりすれば、問題になる場合があります。

大切なのは、「注意したかどうか」ではなく、何のために、どのような内容を、どのような方法で伝えたかです。

2.相手が不快に感じたら、それだけでパワハラになる?

社長

部下が不快に感じたというだけで、会社はハラスメントとして扱わなければならないのでしょうか?

仕事の指示を受ければ、誰でも多少は嫌な気持ちになることがあると思うのですが。

北

不快に感じたという事実は、軽視してはいけません。

しかし、それだけで直ちにパワーハラスメントが成立するわけではありません。

厚生労働省の指針では、職場のパワハラについて、次の3つの要素をすべて満たすものとしています。

  1. 優越的な関係を背景とした言動であること
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動であること
  3. 労働者の就業環境が害されること

客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な指導は、パワハラには該当しません。

例えば、提出期限を守らなかった社員に対し、その理由を確認し、今後の報告方法を指示することは、通常必要な業務指導です。

「相手が嫌だったと言えば、すべてハラスメントになる」という理解は正確ではありません。

ただし、実際の判断では、発言内容だけでなく、言い方、回数、職場での立場、周囲の状況なども確認する必要があります。

3.では、管理職は厳しく指導しても問題ない?

社長

必要な指導なら問題ないということですね。

それなら、仕事のミスが多い社員には、ある程度厳しく叱ってもよいのでしょうか?

北

必要な注意や指導は行うべきです。ただし、「厳しく指導すること」と「感情的に叱責すること」は分けて考えましょう。

例えば、次のような伝え方ではどうでしょうか。

「何回言えば分かるんだ。だからお前は仕事ができないんだ」

これでは、仕事の改善点よりも、相手の能力や人格を否定する言葉が前面に出ています。

一方、

「今回も提出期限を過ぎています。遅れると分かった時点で報告してください。次回からは前日までに進捗を確認します」

という伝え方なら、問題となる事実と改善すべき行動が明確です。

もちろん、言葉を丁寧にすれば、どんな指導でも許されるわけではありません。業務上不可能な要求を繰り返したり、必要以上に追い詰めたりすることも問題になり得ます。

管理職には、相手を傷つけないことだけでなく、仕事の問題を具体的に改善させることが求められます。

4.社員からハラスメントの相談があったら、どう判断する?

社長

実際に社員から「上司の指導がハラスメントだ」と相談された場合は、どう対応すればよいでしょうか?

上司は「普通に注意しただけだ」と説明しているような場合です。

北

まず、どちらか一方の話だけで結論を出さないことです。

相談者が苦痛を感じていることには配慮しながら、実際に何が起きたのかを確認する必要があります。

例えば、次の点を整理します。

  • いつ、どこで、どのような指導があったか
  • どのような業務上の問題があったのか
  • 上司が実際に使用した言葉や指示の内容
  • 同様の指導が何度も行われていなかったか
  • メールや業務記録、周囲の人の証言などがあるか

そのうえで、相談者、指導した上司、必要に応じて関係者から事情を確認します。

注意したいのは、最初から「ハラスメントを受けた人」「加害者」と決めつけないことです。

一方で、調査が終わるまでは何もしなくてよいということでもありません。

相談者に深刻な負担が生じている場合などには、状況に応じて業務上の接触を調整するなどの対応も検討します。

また、相談したことや調査に協力したことを理由に、不利益な取扱いをしてはいけません。

相談を受け止めることと、申告された内容をそのまま事実と認定することは別です。

会社は双方の話を丁寧に確認し、客観的な事実に基づいて判断する必要があります。

5.管理職が萎縮せず、社員も安心して働ける職場にするには?

社長

管理職には必要な指導をしてもらいたい。でも、社員が相談しにくい職場にもしたくありません。

両立させるには、どうすればよいでしょうか?

北

重要なのは、何でも言い合えばよいということではなく、仕事の問題を冷静に話し合い、改善できる仕組みをつくることです。

例えば、次のような取組みが考えられます。

① 指導の基準を明確にする

何を守るべきなのか、どのような行動を改善してほしいのかを具体的に示す。

② 指導内容を記録する

注意した日時、問題となった事実、改善を求めた内容、その後の状況などを記録する。

③ 管理職による指導のばらつきを減らす

同じ問題でも上司によって対応が大きく異ならないよう、管理職同士で指導方針を共有する。

④ 相談を受けたときの手順を決める

相談窓口だけでなく、誰が事情を確認し、どのように判断し、必要な対応を決めるのかを整理する。

⑤ 意見や間違いを伝えられる職場にする

社員がミスや問題を報告したとき、頭ごなしに責めるのではなく、事実を確認して改善につなげる。

会社に必要なのは、誰も不快に感じない職場を目指すことだけではありません。

必要な指導はきちんと行い、社員も疑問や問題を安心して伝えられる職場をつくることです。

そうした日々の積み重ねが、ハラスメントの予防と業務改善の両方につながります。

まとめ|「ハラスメントを恐れて何も言えない」職場にしない

まとめ|「ハラスメントを恐れて何も言えない」職場にしない

職場のハラスメント対策では、社員の苦痛や就業環境への影響を軽視してはいけません。

一方で、社員が不快に感じたことを理由に、必要な指導や業務命令まで一律に避けることも適切ではありません。

大切なのは、指導の必要性と方法を区別し、事実に基づいて判断することです。

そして、問題が起きたときに、会社として冷静に確認し、対応できる仕組みを用意しておくことです。

「ハラスメントを防ぐこと」と「必要な指導を行うこと」は、対立するものではありません。

両方が適切に機能する職場づくりを進めていきたいものです。

オフィスキタでは、就業規則の整備、問題社員への指導・対応、ハラスメント相談への対応など、中小企業の実情に応じた労務管理を支援しています。

投稿者プロフィール

北 健夫
北 健夫社会保険労務士・行政書士
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オフィス キタ
特定社会保険労務士・特定行政書士
北 健夫