健康診断を拒否する社員。受診命令や懲戒処分はできる?会社が踏むべき対応手順

「健康診断は受けたくありません」

毎年実施している定期健康診断について、従業員からこう言われたら、会社はどうすればよいのでしょうか。

会社には健康診断を実施する義務がありますが、従業員が受診を拒否し続けた場合、対応に悩む経営者もいるでしょう。

「本人の健康のことだから、放っておいてもよいのでは?」

「会社の命令を聞かないのだから、懲戒処分をしてもよいのでは?」

実は、どちらも慎重に考える必要があります。

今回は、社長とオフィスキタ代表・北のやり取りから、実務上の対応を整理します。

1.健康診断を拒否する社員を、そのまま放置してもよい?

社長

うちの会社では毎年、定期健康診断を実施しています。

ところが、ある正社員が昨年も今年も受診していません。

何度か説明しているのですが、「健康診断は受けたくない」と言うばかりです。

本人が希望しないのなら、会社としては仕方ないのでしょうか?

北

いいえ。そのまま放置するのは適切ではありません。

労働安全衛生法では、会社に対して、対象となる従業員に健康診断を実施する義務を定めています。

一般的な定期健康診断は、原則として1年以内ごとに1回実施する必要があります。

そして、ここが重要なのですが、健康診断は会社だけの義務ではありません。

労働安全衛生法第66条第5項では、従業員にも、会社が実施する法定健康診断を受ける義務が定められています。

つまり、「受けるかどうかは本人の自由だから、会社は何もしなくてよい」というものではないのです。

まずは受診を拒否している理由を確認し、受診に向けた対応を続ける必要があります。

2.会社が指定した病院でなければいけない?

社長

本人が「会社の指定した病院では受けたくない」と言っている場合はどうでしょう?

別の病院で受けたいという希望まで認める必要がありますか?

北

はい。会社が指定した医療機関でしか受診できない、というわけではありません。

法律では、従業員が会社指定の医師による健康診断を希望しない場合、ほかの医師による同等の健康診断を受け、その結果を証明する書面を会社に提出する方法も認められています。

例えば、かかりつけの医療機関で受けたいという希望があれば、その方法を検討できます。

ただし、単に「別の病院に通院しています」というだけでは、法定の定期健康診断を受けたことにはなりません。

必要な検査項目を満たしているか、受診結果を確認できるか、といった点が重要です。

会社としては、受診する医療機関について本人と調整し、必要な項目や提出書類を事前に説明しておくとよいでしょう。

3.何度説明しても拒否するなら、受診命令を出せる?

社長

実は、受診の必要性は何度も説明しています。

それでも本人が理由をはっきり説明せず、受診を拒否し続けているんです。

会社として、正式に受診を命じることはできますか?

北

合理的な理由がなく、法定健康診断の受診を拒否し続けている場合には、会社が業務命令として受診を指示することも考えられます。

ただし、いきなり命令書を出す前に、もう一度、受診しない理由を丁寧に確認してください。

例えば、日程の都合、医療機関への不安、検査に対する抵抗感など、調整によって解決できる事情があるかもしれません。

そのうえで、受診方法を案内してもなお拒否が続くのであれば、書面による指示を検討します。

書面には、受診が必要な理由、受診期限、受診方法、ほかの医療機関で受ける場合の条件などを明確にしておくとよいでしょう。

また、これまでいつ、どのように説明し、本人がどのように回答したのかも記録しておくことが重要です。

会社が受診の機会を用意し、必要な説明や調整を行った経緯を残すことが、後の対応を判断するうえでも役立ちます。

4.それでも拒否する社員は、懲戒処分にできる?

社長

受診命令を出しても、なお拒否されたらどうでしょう?

就業規則には、業務命令に従わない場合の懲戒規定があります。

それなら懲戒処分をしてもよいのでしょうか?

北

懲戒処分を検討できる場合はあります。

ただし、受診を拒否したという事実だけで、どのような懲戒処分でも認められるわけではありません。

判断に当たっては、就業規則の規定、受診命令の合理性、拒否の理由、これまでの指導経過、処分の重さなどを確認する必要があります。

懲戒処分には、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要だからです。

今回のように、会社が受診の必要性を繰り返し説明し、代替方法も案内したのに、合理的な理由なく拒否が続いている場合には、まず戒告や譴責など、比較的軽い懲戒処分を検討することが考えられます。

一方で、健康診断を拒否したからといって、直ちに懲戒解雇できると考えるのは危険です。

解雇は従業員にとって極めて大きな不利益となるため、より慎重な判断が必要です。

会社としては、処分を急ぐよりも、まず受診を実現するための指導と調整を尽くすことが重要です。

5.会社として、どのような仕組みを整えておけばよい?

社長

これまでは、健康診断の案内を配って、受診しなかった社員には口頭で注意する程度でした。

今回のようなことが起きないよう、どのような仕組みを作っておけばよいでしょうか?

北

まず、健康診断の案内をしただけで終わらせず、実際に受診したかどうかまで確認できる仕組みが必要です。

具体的には、次のような対応をおすすめします。

  • 健康診断の対象者と受診状況を管理する
  • 未受診者には早い段階で理由を確認する
  • 日程変更や別の医療機関での受診方法を案内する
  • 受診拒否が続く場合は、指導内容や本人の回答を記録する
  • 就業規則の受診義務や懲戒規定と、実際の運用を確認する

もう一つ忘れてはいけないのが、健康診断結果の取扱いです。

健康診断の結果には、従業員の健康に関する重要な個人情報が含まれています。

会社が健康管理のために必要な情報を適切に扱うことと、その情報を誰でも見られるようにすることは別問題です。

受診状況や結果を管理する担当者、情報の保管方法、利用目的なども整理しておく必要があります。

健康診断は、従業員に受診を命じて終わりではありません。

結果に応じた医師の意見聴取や就業上の措置など、会社がその後に対応すべき事項もあります。

まとめ

定期健康診断は、会社に実施義務があるだけでなく、対象となる従業員にも受診義務があります。

正当な理由なく受診を拒否し続ける場合には、会社が受診を指示し、状況によっては懲戒処分を検討することも考えられます。

しかし、重要なのは、拒否した従業員を処分することではなく、健康診断を適切に受けてもらうことです。

そのためには、拒否の理由を確認し、必要に応じて受診方法を調整し、説明や指導の経過を記録しておく必要があります。

就業規則に受診義務が書かれているだけでは、十分とはいえません。

未受診者への対応から受診結果の管理まで、会社として実際に機能する仕組みを整えておきたいものです。

オフィスキタでは、就業規則の整備、従業員への指導・懲戒処分の検討、健康管理に関する労務対応など、中小企業の実情に応じた労務管理を支援しています。

投稿者プロフィール

北 健夫
北 健夫社会保険労務士・行政書士
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北 健夫