社員が仕事中に事故。会社の損害は全額請求できる?就業規則に書いてあっても注意が必要です

社員が仕事中に事故を起こし、会社に大きな損害が発生した。

「本人の不注意なのだから、修理代は本人に負担してもらいたい」

経営者として、そう考えることもあるでしょう。

しかし、業務中の事故については、社員に過失があったからといって、必ずしも損害の全額を請求できるわけではありません。

今回は、ある会社の社長とオフィスキタ代表・北のやり取りから、実務のポイントを整理します。

1.社員の不注意なら、全額請求できる?

社長

うちの社員が営業車を運転中に事故を起こして、修理代が100万円ほどかかりそうなんです。本人の不注意が原因なのですが、会社から全額請求しても問題ありませんよね?

北

社員に過失があれば、会社が損害賠償を請求できる場合はあります。

ただし、「本人が悪いのだから100万円すべてを負担させられる」とは限りません。

仕事には、一定のミスや事故の危険が伴います。その仕事によって利益を得ている会社にも、状況によっては損害を負担すべき部分があると考えられるためです。

2.会社が負担する部分は、どうやって決まる?

社長

なるほど。でも、本人の運転ミスなのに、どうして会社にも負担が生じるのですか?

北

事故の原因だけでなく、事故が起きた背景も考える必要があるからです。

例えば、次のような事情です。

  • 社員にどの程度の不注意があったのか
  • 無理な勤務や運転をさせていなかったか
  • 会社は適切な指導や安全管理をしていたか
  • 自動車保険などで損害に備えていたか
  • どのような業務中に起きた事故なのか

実際に、業務中の交通事故について会社から社員への賠償請求が争われた最高裁判例があります。

その事件では、会社が車両保険などに加入していなかった事情や、社員の業務内容などが考慮され、社員への請求は損害額の4分の1が限度とされました。

大切なのは、社員の過失だけでなく、会社側の管理体制や損害への備えも判断材料になるという点です。

3.では、社員には25%までしか請求できない?

社長

ということは、100万円の損害なら、本人に請求できるのは25万円までということですか?

北

いいえ。そこは誤解しやすいところです。

先ほどの25%という数字は、あくまでその裁判の具体的な事情を踏まえた判断です。

すべての事故について、会社が75%、社員が25%を負担すると決まっているわけではありません。

事故の態様や過失の程度、会社の管理状況などによって結論は変わります。社員に故意や重大な過失がある場合と、通常の業務上の不注意の場合とでも、評価は異なり得ます。

まずは事実関係と実際の損害額を確認することが重要です。

4.就業規則に「損害を賠償させる」と書いてあるのですが?

社長

うちの就業規則には、社員が故意や過失で会社に損害を与えた場合、損害賠償を請求できると書いてあります。それでも全額請求は難しいのですか?

北

はい。就業規則に規定があっても、無条件に全額請求できるわけではありません。

損害賠償に関する規定を設けること自体と、実際にいくら請求できるかは、別の問題です。

また、「事故を起こしたら一律10万円」「退職したら違約金30万円」といったように、労働契約の不履行についてあらかじめ違約金や損害賠償額を決めておくことは、労働基準法第16条との関係で問題になります。

就業規則があるから安心、ではなく、実際の運用が法律や判例の考え方に沿っているかを確認しておく必要があります。

5.修理代を給与から差し引いてもよい?

社長

では、本人に一定の負担を求めるとして、毎月の給与から少しずつ差し引く方法はどうでしょう?

北

会社の判断だけで給与から差し引くことは避けなければなりません。

労働基準法第24条には、賃金の全額払いの原則があります。会社に損害賠償請求権がある場合でも、それを理由に一方的に給与と相殺することは認められません。

本人が同意している場合でも、その同意が本当に自由な意思によるものかなど、慎重な判断が必要です。

事故が起きたときは、いきなり賠償額を決めるのではなく、事故の経緯、会社の管理状況、保険の適用、実際の損害を整理したうえで対応することが大切です。

まとめ|事故が起きる前の備えも重要です

社員が業務中に会社へ損害を与えた場合、会社が損害賠償を請求できることはあります。

しかし、請求できる範囲は、社員の過失だけでなく、業務の実態や会社側の管理体制なども踏まえて判断されます。

会社として確認しておきたいのは、次の点です。

  • 事故が起きた場合の報告・記録の仕組み
  • 安全指導や業務指示の適切さ
  • 業務内容に応じた保険への加入
  • 就業規則の損害賠償規定と実際の運用

社員にいくら負担させるかを考える前に、会社として事故を防ぐ仕組みと、事故後に適切に対応できる体制を整えておくこと。

それが、損害を小さくし、社員との余計な労務トラブルを防ぐことにもつながります。

オフィスキタでは、就業規則の整備や社員への対応を含め、中小企業の実情に応じた労務管理を支援しています。

記事の法的根拠

今回、元記事の内容と照合した主な資料です。

  • 茨城石炭商事事件(最高裁1976年7月8日判決):業務中の事故について、会社と社員の損害の公平な分担を判断した判例。check-roudou.mhlw.go.jp
  • 労働基準法第16条:労働契約の不履行についての違約金・損害賠償額の予定を禁止。mhlw.go.jp
  • 労働基準法第24条:賃金全額払いの原則。会社の一方的な損害賠償金の給与相殺は認められません。check-roudou.mhlw.go.jp

投稿者プロフィール

北 健夫
北 健夫社会保険労務士・行政書士
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北 健夫