「女性の服装で働きたい」「女性トイレを使いたい」従業員から相談されたら?会社のSOGIハラ対策

従業員から突然、「これからは女性の服装で勤務したい」「女性用のトイレや更衣室を使いたい」と相談されたら、会社はどう対応すればよいのでしょうか。

本人の希望を尊重したい一方で、ほかの従業員への配慮や職場環境への影響も気になるところです。

こうした問題では、会社が一方的に結論を出してしまうと、思わぬ労務トラブルにつながることがあります。

今回は、社長とオフィスキタ代表・北のやり取りを通して、性的指向や性自認に関する職場での対応、いわゆる「SOGIハラ」対策について考えます。

1.本人の希望を、そのまま認めなければならない?

社長

ある従業員から、「これからは女性の服装で勤務したい。女性用のトイレや更衣室も使いたい」と相談がありました。

正直、会社としてどう判断すればいいのか分かりません。

本人が希望すれば、すべて認めなければならないのでしょうか?

北

まず大切なのは、本人の話を丁寧に聞き、事情を把握することです。

SOGIとは、性的指向(Sexual Orientation)と性自認(Gender Identity)の頭文字を組み合わせた言葉です。

今回のような相談は、特に性自認に関係する問題ですね。

会社としては、本人が何に困っているのか、どのような対応を望んでいるのかを確認する必要があります。

ただし、本人の希望を聞いたからといって、何も検討せずにすべてを決めるということではありません。

職場の設備や利用状況、ほかの従業員のプライバシーなども踏まえて、具体的な対応を考えることになります。

2.女性の服装での勤務を、会社が禁止することはできる?

社長

服装についてはどうでしょう。

これまで男性用の服装で働いていた社員が、急に女性の服装で出勤すると、周囲も驚くと思います。

職場が混乱するからという理由で、禁止することはできませんか?

北

単に「ほかの社員が驚くから」「違和感があるから」という理由だけで禁止するのは、慎重に考える必要があります。

実際に、女性の服装で勤務することなどを希望した従業員に対し、会社がこれを認めず、最終的に懲戒解雇したことが争われた裁判例があります。

この事件では、会社側が懸念した職場への影響について、業務遂行に著しい支障が生じるといえるだけの事情が十分に示されていないことなどが考慮され、懲戒解雇は無効と判断されました。

もちろん、会社が業務に必要な服装や安全上のルールを定めることまで否定されるわけではありません。

例えば、機械を扱う仕事で服装に安全上の制約がある場合には、その必要性を踏まえた検討が必要です。

重要なのは、性自認への偏見と、業務上本当に必要な制約を区別することです。

3.女性トイレや更衣室の利用はどう判断する?

社長

服装については分かりました。

ただ、トイレや更衣室となると、ほかの女性従業員の気持ちも考えなければなりませんよね。

本人の希望と周囲への配慮を、どう両立させればいいのでしょうか?

北

ここは特に、個別の事情を確認して判断する必要があります。

2023年には、性自認が女性である経済産業省の職員に対する女性トイレの使用制限について、最高裁判所が判断を示しました。

その事件では、一定の女性トイレの使用を認めない扱いについて、具体的な事情の下で、人事院の判断が違法とされました。

ただし、この判決は、すべての職場で、本人が希望するトイレの使用を無条件に認めなければならないと決めたものではありません。

会社としては、本人の希望や負担、トイレ・更衣室の構造、実際の利用状況、ほかの利用者のプライバシーや安全面などを丁寧に確認する必要があります。

場合によっては、個室型の設備なども選択肢になります。

ただし、特定の従業員だけに不便な設備の利用を一方的に求めればよい、というものでもありません。

本人と十分に話し合いながら、現実的な方法を検討することが大切です。

4.ほかの従業員に事情を説明してもいい?

社長

職場の理解も必要だと思うのですが、ほかの従業員に本人の事情を説明してもいいのでしょうか?

何も説明しないと、かえって混乱するようにも思います。

北

ここは非常に注意が必要です。

本人の性自認や性的指向に関する情報を、本人の了解なく周囲に伝えることは「アウティング」と呼ばれ、重大なプライバシー侵害やハラスメントの問題につながります。

会社が善意で説明したつもりでも、本人が望んでいなければ問題になり得ます。

まずは本人に、誰に、何を、どの範囲まで伝えてよいのかを確認してください。

また、ほかの従業員への対応として、必ずしも本人の個人的な事情を説明する必要があるとは限りません。

例えば、プライバシーの尊重や、性的指向・性自認に関する侮辱的な発言を許さないという会社の方針を、全従業員に周知する方法もあります。

本人の情報を守りながら、職場全体の理解を促す。 この両方が重要です。

5.中小企業では、どこまで対応すればいい?

社長

うちはそれほど大きな会社ではありません。

専用の設備を新しく作る余裕もありませんし、専門の相談窓口もありません。

まず何から始めればよいでしょうか?

北

大がかりな設備投資をする前に、できることはあります。

まずは、本人の相談を落ち着いて受け止め、必要な情報を整理することです。

そのうえで、次の点を確認してみてください。

  • 本人が希望する対応と、現在困っていること
  • 服装や設備について、業務上必要なルールがあるか
  • 既存の設備や運用方法で工夫できることはないか
  • 本人の個人情報を誰が管理し、どこまで共有するか
  • 侮辱的な言動や嫌がらせが起きた場合、誰が対応するか

対応を一度決めたら終わりではありません。

実際に運用してみて問題がないか、本人や関係者の状況を確認しながら見直すことも必要です。

そして、相談したことを理由に不利益な取扱いをしたり、会社が問題を放置したりしないことも重要です。

中小企業だから対応できない、ではなく、自社でできる配慮を一つずつ具体化することが大切だと思います。

まとめ|一律の判断ではなく、本人と職場の事情を丁寧に確認する

従業員から性自認に関する相談を受けた場合、会社として避けたいのは、事情を十分に確認しないまま、一方的に許可・禁止を決めてしまうことです。

服装やトイレ・更衣室の利用については、本人の希望を尊重しながら、業務の内容や設備、ほかの従業員のプライバシーなども含めて検討する必要があります。

また、本人の性自認や性的指向を無断で周囲に知らせないこと、侮辱的な言動を放置しないことも欠かせません。

大切なのは、特別な対応を用意することだけではなく、本人の尊厳と職場全体の就業環境を守るために、会社が丁寧な対応を積み重ねることです。

オフィスキタでは、ハラスメント対策や就業規則の整備、従業員への対応など、中小企業の実情に応じた労務管理を支援しています。

投稿者プロフィール

北 健夫
北 健夫社会保険労務士・行政書士
依頼者様の悩みに寄り添い,親切・丁寧にサポートいたします。
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特定社会保険労務士・特定行政書士
北 健夫