「残業は許可制」のはずなのに、勝手に残業した社員にも残業代を払う必要がある?

「残業するときは、必ず上司の許可を取ること」

そう決めている会社は少なくありません。

ところが、許可を取らずに社員が残業し、後になって残業代を請求してきたら、会社は支払わなければならないのでしょうか。

実は、「許可していないから残業代は出さない」という対応が、必ずしも認められるわけではありません。

今回は、残業の事前許可制を設けている会社の社長と、オフィスキタ代表・北のやり取りから考えてみます。

1.無断で残業した社員にも、残業代が必要?

社長

うちの会社では、残業するときは事前に上司の許可を取る決まりにしています。

ところが、許可を取らずに残業する社員がいて、後から残業代を請求してきたんです。

許可していないのだから、支払わなくてもいいですよね?

北

そう言い切れないところが難しいんです。

残業の事前許可制を設けること自体は、労働時間を管理するうえで有効な方法です。

ただし、事前の許可がなかったという理由だけで、その時間を労働時間から除外することはできません。

重要なのは、実際に会社の指示のもとで働いていたと評価されるかどうかです。

ここでいう指示には、上司が「残業しなさい」と明確に命じた場合だけでなく、状況から認められる「黙示の指示」も含まれます。

2.上司が何も言っていなくても、残業を指示したことになる?

社長

黙示の指示というのは、どういうことですか?

上司が「残業しろ」と言っていないのに、指示したことになるんですか?

北

例えば、こんな状況を考えてみてください。

ある社員が、毎日のように定時を過ぎても仕事をしています。

上司はその状況を知っていますが、特に注意せず、残業して仕上げた資料を翌朝受け取っています。

しかも、その業務量は定時までに終わらせることが難しいものでした。

こうした場合、会社が残業を事実上容認していたとして、黙示の指示があったと判断される可能性があります。

「残業を許可した覚えはない」という会社の認識と、法律上の労働時間に当たるかどうかは、別の問題なのです。

3.就業規則に「無許可の残業は禁止」と書いてあれば大丈夫?

社長

でも、就業規則には「上司の許可なく残業してはならない」と明記しています。

それでも残業代を請求される可能性があるのですか?

北

あります。

就業規則に禁止規定があっても、会社が実際には残業を放置していたり、残業しなければ終わらない仕事を与えていたりすれば、規定だけで支払いを免れることはできません。

一方、裁判例には、会社側が残業を明確に禁止し、その指示を徹底していたため、残業時間として認められなかった事例もあります。

この事例では、会社は残業禁止を繰り返し伝えるだけでなく、仕事が残っている場合には役職者へ引き継ぐよう指示していました。

つまり、「残業禁止と書いてあるか」ではなく、「残業させないために会社が実際に何をしていたか」が重要になるのです。

4.では、残業している社員を見つけたら帰らせればいい?

社長

なるほど。それなら、許可なく残業している社員には、すぐ帰るよう指示すればいいわけですね。

北

それは大切な対応の一つです。

ただし、単に「早く帰りなさい」と言うだけでは不十分な場合があります。

例えば、今日中に終わらせなければならない仕事が大量に残っているのに、「残業は禁止。でも仕事は終わらせて」と指示したら、社員は困ってしまいますよね。

会社としては、残っている仕事をどうするのかまで決める必要があります。

翌日に回せるのか、別の社員に分担するのか、上司が引き継ぐのか。

残業を禁止するなら、残業しなくても業務が回るように調整することが必要です。

これができていないと、形だけの残業禁止になってしまいます。

5.残業の事前許可制を機能させるには?

社長

うちも、就業規則に書いてあるだけで、実際の運用は各部署の上司任せになっています。

どこから見直せばいいでしょうか?

北

まずは、次のような運用を整えることをおすすめします。

  • 残業が必要な場合の申請・承認方法を明確にする
  • 上司が日々の業務量と進捗を把握する
  • 無許可の残業を見つけたら、状況を確認して具体的に指示する
  • 残った業務を翌日に回す、分担するなどの対応を決める
  • タイムカードやパソコンの記録などから、実際の労働時間を確認する

特に注意していただきたいのは、「承認された残業時間」と「実際の労働時間」を混同しないことです。

例えば、残業申請が30分でも、実際には1時間仕事をしていたのであれば、その差について確認が必要です。

会社が承認した時間だけを機械的に労働時間として扱う運用では、未払賃金の問題につながりかねません。

なお、実際の労働時間に当たる場合でも、そのすべてに法律上の割増率が適用されるとは限りません。法定労働時間を超えたかどうかなどにより、通常の賃金と割増賃金の取扱いは異なります。

まとめ|残業の許可制は「作ること」より「守らせる仕組み」が重要

まとめ|残業の許可制は「作ること」より「守らせる仕組み」が重要

残業の事前許可制は、会社が労働時間を適切に管理するための有効な仕組みです。

しかし、許可を取っていないという理由だけで、実際に行われた残業の賃金を支払わなくてよいとは限りません。

大切なのは、社員が時間外に何をしていたのか、上司はそれを把握していたのか、残業が必要となる業務状況だったのかを確認することです。

そして、残業を禁止するのであれば、その指示を徹底するとともに、業務の進め方も見直す必要があります。

就業規則にルールを書くことと、そのルールが実際の職場で機能していることは別です。

残業代の未払いを防ぐためにも、会社の実態に合った労働時間管理の仕組みを整えておきたいものです。

オフィスキタでは、就業規則の整備から残業管理の運用改善まで、中小企業の実情に応じた労務管理を支援しています。

投稿者プロフィール

北 健夫
北 健夫社会保険労務士・行政書士
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北 健夫